大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3100号 判決 1995年9月12日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実および理由】

第一  当事者の申立

1  控訴人

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人は控訴人に対し、金四一五万九八二一円及びこれに対する平成五年五月一三日から支払済みまで年五分による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件の事案の概要は、次の通り補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決二枚目表六行目の「日本経済新聞に」を「日本経済新聞、証券専門新聞各紙や株界旬報という雑誌の広告として」と改め、同三枚目裏八行目末尾に改行のうえ「又このワラントの投機性、危険性、難解性等を考慮すれば面会できない顧客との間では理解が得られないから、遠隔地の顧客とは取引が禁止されるべきである。」を、同九行目冒頭の「原告は、」の次に「東大阪に居住し、由雄は被告の東京本店にあって電話等の通信により取引をしていたものであり、いわば遠隔地の顧客であり、又」をそれぞれ加え、同五枚目裏六行目の「商品であるのに、」を「商品であるから、それらの情報を提供し、場合により手仕舞いを勧告する義務があるのに、」と改める。

2 同七枚目裏八行目冒頭から同末行末尾までを「本件ワラント取引においては、ある取引で得た利益を元本に乗せてその後の投資資金とすることが多かったことは認める。しかし控訴人は利益の返還を求めず、又ほとんどの取引で残高を残して次の取引をしており、この投資方法はいわゆる利乗せ満玉取引に該当しないが、結果として利益もその後の投資資金とされたものであるが、これは資金を遊ばせずに頻繁に回転を好む控訴人の意向に基づくものである。」と改め、同八枚目表二行目の次に改行のうえ「証券会社は顧客に対し手仕舞い勧告義務はない。」をそれぞれ加える。

二  証拠《略》

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求を理由がないと判断するものであるが、その理由は次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決九枚目表初行の「第一〇六号証の一乃至一九、」の次に「第一一七乃至第一二二号証の各一及び二」を同二行目の「第一五号証の一及び二」の次に「第二〇乃至第二二号証の各一及び二、第二三号証の一乃至七、第三二号証、」を、同八行目の「取引の内容は」の次に「国債、割引債券等のほかは」を、同九行目の「一流銘柄のみならず、」の次に「株価の変動が比較的激しい」を、同裏二行目の「株式取引においても、」の次に「同様であって利益の返還を求めずにその後の投資資金に充当し、又その保有期間も比較的短いばかりか、」を、同一〇行目の「原告の」の次に「株式取引への」をそれぞれ加える。

2 同一二枚目表二行目末尾の次に改行のうえ次のとおり加える。

「(控訴人はこの小松製作所ワラントやその後のワラント購入についても、その勧誘時点では発行価格等の条件が確定せず、公告もその後であるから、由雄が控訴人に説明できる筈がないと主張するが、確かに発行価格等の条件の確定の取締役会決議やその公告が新聞に掲載されたのは右勧誘以後であるが、証券会社はワラント発行を決めた取締役会の情報を証券の専門情報である「クイック」で把握できること、権利行使価格は値決日の株式の終値に一・〇二五を乗じた額(ほぼ時価)とされるので、発行時期のほか権利行使期限、発行価格等の発行条件を確定前にほぼ確実に予想することができ、これらの情報を顧客に伝えて予め注文をとることが可能であり、右説明したとする時期が発行条件確定前であるからといって、説明がなかったということはできず、又発行条件確定前の説明や勧誘が直ちに違法であるということもできない。)」

3 同一二枚目表末行末尾に改行のうえ次のとおり加える。

「右乙第三及び第四号証は、右証券業協会が平成元年四月に外国ワラントの投資勧誘等について取引開始基準を定め、顧客への説明書の交付と顧客から確認書を徴求することを決めたことに対応し、被控訴人が既に外国ワラントを購入していた控訴人に対し送付し(乙第三)、控訴人から徴求したもの(乙第四)である。」

4 同一三枚目表二行目の「職場に」の次に「昼間あるいは控訴人から聞いていた夜間電話番号で夜間にも」を加え、同一〇行目末尾の「個別の承諾を得ていた。」を「個別の指示を受けていた。」と改め、同一〇行目末尾の次に改行のうえ「尚由雄は控訴人に対し、二五ポイント程度、金額にして一七〇万円程度のもので、権利行使期限まで長期のものを目安として、ワラント銘柄を推奨していたもので、本件ワラントの権利行使期限については短いもので約二年半であった。」を、同裏初行の「原告の」の次に「株式取引への」をそれぞれ加え、同四行目の「一部、」を「投資の一部約一四〇万円を」と改める。

5 同一三枚目裏九行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は、この取引の期間中、日本経済新聞その他専門誌等で購入したワラントの価格を調べ、判明しないときは由雄に確認することもあり、課税上の取引回数の制限についても確認したことがある。

又各取引の度に被控訴人から報告書と預り証が控訴人に送付されており、右書面には銘柄、数量のほか権利行使期限が「償還月日」欄に記載されていたので、これにより控訴人は権利行使期限を知ることが出来た。

さらに控訴人は、本件ワラント取引では、売却できなかったワラントを除き、すべての取引で利益を挙げたが、次の取引でこの利益を元本に乗せて次の投資資金とすることはなく残高を残して次の取引をしていたが、利益や残高の返還を求めることはなく、利益はその後の投資資金に充当して取引が行われたことが多かった。

(右認定に対して控訴人の供述中、キャピタルゲインを狙い投機性向のすくない投資をしてきたこと、又課税上の取引制限から年三〇回以上の取引をしないこととしていたとする部分は、和光証券との株式取引においても、その保有期間が短く、又利益部分もその後の投資資金に使用していること、課税上の取引制限は平成元年三月に廃止され、そのことを前記確認の際に由雄から聞いていることが認められることに照らすと採用できない。)」

6 同一五枚目表二行目の「ようアドバイスした。」の次に「これは控訴人が由雄に対し、手持ちのワラントを処分することを前提として、資金を追加する等して別のワラントを購入すべく適当な銘柄を探すことを依頼したことに対応して行われたもので、控訴人は右時点で手持ちのワラントをそのまま保持するとこれが無価値になることを十分認識していた。」を加える。

7 同一六枚目裏六行目末尾の次に改行のうえ次のとおり加える。

「尚控訴人は遠隔地の顧客との取引は禁止されるべきであると主張するが、遠隔地であることがその顧客のワラントについての理解を妨げるというものではなく、その顧客の判断能力、投資経験、証券会社の説明や提供する情報等によって十分理解できるものであるから、遠隔地であることのみで顧客としての適合性を欠くということはできないというべきである(甲第二一号証の八によれば一部証券会社が顧客の要件として遠隔地の顧客でないことを挙げていることが認められるが、右要件が仮に顧客の保護の観点から決められているとするも、それのみならず証券会社の顧客に対する責任の遂行を可能ならしめるべく顧客を知るためや、業務の遂行等の証券会社の利益も併せて考慮して決められたものと考えられるから、これが右判断の妨げになるとはいえない。)。」

8 同一八枚目表三行目の「原告の」の次に「株式取引への」を加え、同五行目の「個別の承諾」を「個別の指示」と改め、同行の「由雄は、」の次に「二五ポイント、金額にして一七〇万円程度で権利行使期限まで長期のものを目安として購入銘柄を推奨し、又」を加え、同裏五行目の「個別の承諾」を「個別の指示」と改める。

9 同一八枚目裏七行目冒頭から同九行目の「記のとおりである。」までを削除し、同一九枚目表四行目の「本件ワラント取引では、」の次に「ある取引で得た利益を元本に乗せてその後の投資資金として取引が行われることが多かったが、利益の満額を次の取引に投資することなく相当額を残していたもので、いわゆる利乗せ満玉取引に該当するものではないから、右投資方法が違法であるとはいえないが、結果として利益も再投資された取引が多かったことは前記のとおりであり、この点で仮に違法であるとしても、」を加え、同六行目と同六行目から同七行目にかけての各「利乗せ満玉」をいずれも「右投資方法」と改める。

10 同一九枚目表一〇行目冒頭から同裏三行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は、証券会社は顧客に対し、取引終了後に情報を提供し、あるいは手仕舞い勧告をする義務を負うと主張するが、投資者は自己の判断と責任で取引を行うべきものであるから、証券会社が顧客である投資者に対し、その購入した商品の価格等の情報を提供し、あるいは手仕舞いを勧告する義務を負担する根拠はなく、その商品がワラントであるとしても同様であるというべきである(顧客がワラント価格の変動の激しいこと、権利行使期限経過後は無価値となること等その投機性、危険性、難解性等を理解できていないのに、又は証券会社がその説明を怠り、あるいはその危険性等につき誤った説明をする等してワラントを購入させた場合は、購入の段階での違法性の有無を問題にすれば足りる。又取引の後に情報提供をし、あるいは売却等を勧めるのは新たな取引への勧誘やそのためのサービスであり、これにつき誤った情報を提供したり処分の時期を誤らせる等の場合には、その新たな取引の違法性の有無を問題としうるのであり、その不作為が違法とされる場合があるとは考えられない。)。

しかも前記認定のとおり控訴人は、ワラントにつき十分理解しており、又由雄からも情報や説明を得て主導的に購入していたもので、しかも手持ちワラントのうち三銘柄の価格についての情報は、購入後二、三か月後には、新聞等からでも得ることができたのであり、残る一銘柄の価格も証券会社に聞くことができ、実際にも手持ちワラントの価格を把握していたし、又ワラントの権利行使期限についても取引の都度知らされ、その行使期限経過後は無価値となることも認識していたものであり、さらに由雄は取引終了後も控訴人に対し、手持ちワラントの価格を伝えるとともに、売却方のアドバイスも行っていたものであるから、手持ちワラントにつき放置していたというものでもなく、何ら違法とすべき事由がない。」

二  そうすると原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、民事訴訟法三八四条、第九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 武田多喜子 裁判官 松山文彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例